2006-21:古川日出男「アラビアの夜の種族」

アラビアの夜の種族 (文芸シリーズ)

アラビアの夜の種族 (文芸シリーズ)

 タイトルに惹かれた。
 舞台はイスラームの聖遷暦1213年、西暦1798年のエジプト。ナポレオンの進攻の前後と、その進攻を止めるべく、読むものはその書と「特別な関係」に陥り身を滅ぼすとされる「災厄の書」を作り出すため語られてゆく砂の年代記が交互に綴られる二重の小説。
 「災厄の書」の部分はとても好きだ。妖魔が現れる伝承の世界が好きということか…。前半はゆっくりとしているけれど語り口が心地良い。そのよさが後半では失われていくけれどもぐいぐいと読ませられる。RPGが好きな向きにはもっとたまらないのではないかと。迷宮の中で魔物を倒せばお金が手に入るわけをもっともらしく説明されていて、なるほどと納得。
 終幕に明かされる事実は邪推しても読みきれなかった。そして作者のあとがきがさらにこの「アラビアの夜の種族」という書物を多層化させてゆく。虚構の中の虚構、さらに虚構。
 明るくそして闇をはらんだアラビアの物語の世界を美しいと思った小説だった。そのうちきちんとアラビアン・ナイトを読むのもいいかなあ。