2006-26:金原ひとみ「オートフィクション」

オートフィクション

オートフィクション

 なんとなく読んでみた。
 オートフィクションとは自伝的創作、これは作者のことかしらと読者に思わせるような創作のことだそう。それを言えば一つ前の「AMEBIC」だってそうだろう。その「AMEBIC」を読んだときと似たようなものを感じた。
 小説家の主人公リンが、編集者のひとりにオートフィクションを書いて欲しいと依頼される。そしてその後綴られる彼女の過去と思われる文章は、果たして本当に彼女の過去なのかそれとも彼女が作り出した創作なのか。オートフィクション中のオートフィクション。なんとなく最近こういう入れ子構造の物語によく出会うような気がする。こういうの多いのかね。

「私にサナトリウムでの幼少期を書けとおっしゃるんですか?」
 こうやって編集者をはぐらかそうとする台詞はとてもよかったし、この先どうなるか少しだけ期待したけれど、遡ってゆく過去はあまり面白いとは思えない。残念。夫の秘密とやらも宙に浮いたままで気になる。そしてリンの強すぎる被害妄想は生きていくこと自体が困難に思える。ところどころ笑ってしまうけれど、笑っていいのかわからない。