2008-03:マークース・ズーサック『本泥棒』(早川書房)

本泥棒

本泥棒

わたしは死神。自己紹介はさして必要ではない。好むと好まざるとにかかわらず、いつの日か、あなたの魂はわたしの腕にゆだねられることになるのだから。これからあなたに聞かせる話は、ナチス政権下のドイツの小さな町に暮らす少女リーゼルの物語だ。彼女は一風変わった里親と暮らし、隣の少年と友情をはぐくみ、匿ったユダヤ人青年と心を通わせることになる。リーゼルが抵抗できないもの、それは書物の魅力だった。墓地で、焚書の山から、町長の書斎から、リーゼルは書物を盗み、書物をよりどころとして自身の世界を変えていくのだった……。

 言葉を愛し、憎むことになる少女の物語。死神だなんてあちらこちらに時間を越えて行き来することのできる便利な語り手だ。
この死神はサスペンスを語ることには興味が無いと自ら言い、ところどころでその結末をあらかじめ明らかにしてしまう。けれど彼の言うとおり、心の準備をした上で物語を追ってゆける。「いいものを見せてあげる」という死神の言葉は本当だった。リーゼルに注がれる愛情も、本や言葉が生む力も、素敵で哀しい。
 初めてこの本を見かけたのは本屋さんの外国小説の棚だった。そのタイトルに惹かれて読むことにしたのは正解だった。