小川洋子「やさしい訴え」

やさしい訴え (文春文庫)

やさしい訴え (文春文庫)

 元ピアニストでチェンバロ職人とその助手とカリグラファーの交流。と書くとなんだかつまらない。小川さんの世界は静かでやや歪んでいて、印象として薄暗く湿った感じがする。それでもその薄暗さの中にあるものは乱れてはいない、という感じか? 泣いて叫ぶ主人公がいるのにも関わらず。以前はその少しひんやりとした薄暗さが心地よかったけれども、少し飽きた。
 彼女はこういうものしか書かないのかしらと思っていたけれども、「博士の愛した数式」はそうではないからこの先どうなのか楽しみではある。