夕暮れ時。日は落ちて、家並みが沈んでいき、坂の上に広がる空の色は薄く暗く紫がかっている。藤城清治の影絵のような淡い色。刻々とその色合いは変わってゆくから、わたしは少しだけ立ち止まって空を見上げる。歩く人は誰もいない。静かな、水底にいるような時間。現実世界から遊離したような昼と夜の境目を越え、わたしはまたひとりで夜の道を歩き始めた。