sketch

夕暮れ時。日は落ちて、家並みが沈んでいき、坂の上に広がる空の色は薄く暗く紫がかっている。藤城清治の影絵のような淡い色。刻々とその色合いは変わってゆくから、わたしは少しだけ立ち止まって空を見上げる。歩く人は誰もいない。静かな、水底にいるよう…

夜道、深い群青色の空に浮かぶ月を見上げながら歩いた。吸い込まれそうな、気が遠くなりそうな、そんな澄んだ暗さの空。 家のそばの切り立ったちょうど崖のようになった場所からは、すり鉢のような街の灯りと海、そして対岸が見える。そんなところに猫が2匹…

扉の向こう側、プラットホームにウォークマンのイヤホンがぽつり。置いてけぼりのそれは、くったりと横たわっていた。

かえりみち

汗をかきながら坂道を登る。カーブを描く急な坂の向こうには細い細い月、繊月。淡く暗みを帯びた空。電信柱と家のシルエット。静かな宵の口。

駅のホームの階段を上りきって振り返れば、窓の向こうに広がる海が見えた。いつも海を見るたび思う。あの青の底へ沈みたい。水底からきらきらとひかる水面をゆっくりと見上げていたい。

昼下がり

開けた窓からは涼しい風。 冷たい空気を含んだふとんの中でまどろむ。昼寝には熱がこもっていないふとんがいい。 静かな昼下がり。 窓の外をバイクが走っていく音。 宙吊りになっていた心臓がどしんと落ちた、気がして目が覚めた。