2008-02:川上弘美『真鶴』(文藝春秋)

真鶴

真鶴

失踪した夫を思いつつ、恋人の青茲と付き合う京は、夫、礼の日記に、「真鶴」という文字を見つける。“ついてくるもの”にひかれて「真鶴」へ向かう京。夫は「真鶴」にいるのか? 『文学界』連載を単行本化。

 川上さんのゆるゆるとした明るい「うそばなし」が好きだと以前に書いたように思う。そのうそばなしの流れを汲みながら、薄暗く湿り気を帯びてにじんだ物語だと思った。日差しは向こうに見えるけれど日の入り込まないひんやりと湿った日本家屋の印象。現実の世界とここではないずれた世界、現在と夫と共にいた過去とが交錯していて、こちらまでゆらゆらとしてしまいそうな物語。本当はもっとゆっくりと時間をかけて読むべきだった。